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    CARAVAN 全曲解説

    17thアルバム「幸せのひみつ」と双子の対になる「CARAVAN」が発売された。

    「幸せのひみつ」光。ポジティブ。新曲中心。

    布刺繍の明るいジャケット。

    「CARAVAN」影。ネガティブ。旧曲中心。

    革をフィギュアカービングという技法で彫り、

    ペインティングしている暗いジャケット。

    リュウスケの絢爛豪華で息を呑むようなアレンジ、

    たなかしのの自由奔放で最高傑作と呼べるデザインは18枚目のアルバムというのに驚愕した。

    基本的に対になるツインズ(双子)のコンセプトで24曲が振り分けられた。

    「CARAVAN」はネガティブな表現で入りながらも、

    最後には究極のポジティブなコアにたどり着くので、

    よけいに胸をかきむしるような感動がある。

     

    「CARAVAN」

    1、キャラバン(15年前)

    2、Hey, Bro!(新曲)

    3、Hozho(新曲)

    4、No Exit(15年前)

    5、WAR(15年前)

    6、オレルビス(15年前)

    7、サンサーラ(8年前)

    8、ベスト(18年前)

    9、スマイル(6年前)

    10、Moon Time(15年前)

    11、善悪の彼岸(新曲)

    12、存在の詩(15年前)

     

    ――― 歌詞ページはこちら ―――

  • 1. キャラバン(15年前)

    小説家田口ランディさんの作詞である。

    前作でタクヤとの共作の詩が入ったが、他人の詩がはいるのはAKIRAアルバム全200曲中初である。

    さすが天才ランディさんだけあって、男女の機敏を繊細に描きながら、壮大な宇宙観を描いている。

    詩もさることながら、メロディは「E Gdim F#m B7」のみのコードでスケールの大きな曲に仕上がっている。

    まさに宇宙スケールのラブソングである。

     

    2. Hey, Bro!(新曲)

    「Bro」は「ブラザー」のスラングで「よっ、兄弟!」って感じ。

    人生の裏も表も知り尽くした先輩が悩んでいる若者を励ます歌である。

    先輩は絶対むかしワルだな。波乱万丈な人生でたくさんの友が亡くなっていく姿に涙を振り絞って改心し、人を救う生き方に変わっていった。

    オレ自身もそうだが、オレのまわりにも佐藤さんとか、古市さんとか、アールとか、トムとか、こうやついっぱいいるのよね。

    後輩に伝えるアドバイスは「くよくよ悩んで自分にひきこもってないで、世界へ飛び出せ!」である。

    3. Hozho(新曲)

    メキシコにほど近いナバホ族は世界で最も複雑な言語をもっていて、太平洋戦争ではアメリカ軍の暗号に使われた。

    彼らの高度な言語のなかでもっとも重要な言葉は「Hozho」はビューティ(美)、ハーモニー(調和)、バランス(平和)、ブレッシング(祝福)をひと言であらわす。ナバホ族の宇宙観を凝縮した言葉である。

    ナバホ族は日本人と同じく謙虚を美徳とみなし、人の目を見て話すことは失礼だという習慣がある。

    日本語に「Hozho」のような言葉がないか考えていると、すごい言葉が見つかった。

    「和」である。

    この言葉には、美、調和、平和、祝福のすべてがふくまれている。

    ナバホ族の朝の祈りの言葉「Walk in Beauty」をのせておこう。

    今日も世界は美しい

    私のまえにある美とともに

    私のうしろにある美とともに

    私は歩む

  • 4. No Exit(15年前)

    ひきこもりをテーマにした歌である。

    オレ自身が19歳から日本の価値観に「NO!」を叩きつけ、海外へ出ていった。

    あれから40年、今も半分は海外でひきこもっている。

    オレは自然界からひきこもった人間社会に対して「NO!」を叩きつけたひきこもりたちを肯定する。

    ひきこもりは「魂との対話」であり、自分の魂の中にすべての答えは用意されている。

    この歌はなんとBm7 CM7の「2つのコードだけでできているのに、こんなにも美しいメロディがつくれるのか!」とオレ自身が驚いた。

     

    5. WAR(15年前)

    イントロのラジオ放送は実際に戦争の時使われたものである。

    これぞ狂気の作品だ。15年前のロックバンド「ONSENS」時代にはこれほどまでに狂った作品が書かれていたのである。

    しかし「メサイヤ(救世主)なんかこない。救いなんかない。おまえだけがおまえを救うメサイヤ」とあるように現在もメッセージにブレがない。

    ある意味「Hug yourself」の「自分を愛せないものに人は愛せない」の双子ではと思えてしまう。

     

    6. オレルビス(15年前)

    「オレルビス」はアメリカインディアン最大の聖地シャスタ山に住むウィントゥ族のグレートスピリット(偉大なる精霊、創造主、神)のことを指す。

    「キャラバン」4コード、「No Exit」の2コード、さらにさらにこの歌はGmの1コードでできている!

    「1コードで歌がつくれるんだ!」というのも驚きだが、「こんなにも深い哲学的な歌詞をポピュラーソングで書いていいの!?」という掟破りの歌である。

    本音を言うと、作者のオレでさえ降ってきた深遠な歌詞を翻訳するのが精一杯で、全部理解してるとは言いがたい。

    スルメのように聴けば聴くほど謎と深みが増してくる。

    なにしろリュウスケのシンプルでコアをとらえたアレンジが見事で、アルバム中1番引きこまれる歌かも。

  • 7. サンサーラ(8年前)

    「サンサーラ」はサンスクリット語で「輪廻」をあらわす。

    この歌も8年くらい前にできつつも毎回アルバムでボツを食らった作品である。

    歌詞も書き換え、youtubeやみかんアルバムで原型の歌詞が聴ける。

    この歌も「キャラバン」のように一見ラブソングを装いながら、巨大な宇宙観が歌われている。

    リュウスケのアレンジがインドやササン朝ペルシャを彷彿させる絢爛豪華なアレンジで、やはりこのアレンジにたどり着くまでベストの時を待ったのだと思える。

     

    8. ベスト(19年前)

    1999年にアマゾンで聞いた物語をもとに歌にした。

    「あなたの人生はどの瞬間も完璧で、ベストのことしか人生には起こらない」という究極の悟りを寓話に仕立ててある。

    リュウスケはハサミや鍋やスプーンなどの生活用品を使い、トムウェイツとラウンジリザードのようなキッチュアレンジに仕上げた。

     

    9. スマイル(6年前)

    東北大震災のとき、NPO「スマイルシード」の要請で「みんなを笑顔にしよう」とCDにして無料で配られた歌である。

    福島の原発事故と広島長崎の原爆から「一番強い武器は何?」。

    「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」という白雪姫に着想を得ています。

    被災地ボランティアでボロボロになり、胃がんで余命宣告されてしまったオレがたどりついた究極の武器。

    それは「あなたの笑顔」です。

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    10. Moon Time (ムーンタイム)(15年前)

    「ムーンタイム」とはインディアンの言葉で女性の整理期間を示す。

    2005年に書いた「ムーンタイム」の長いエッセイを引用しよう。

     

    スエット・ロッジの儀式のとき、生理中の女性は参加できないと書いたが、デニス・バンクスが教えてくれた「ムーン・タイム」という考えをもうちょっとくわしく説明しよう。

     ラコタ族やオジブワ族は、大地を母、天を父、月を祖母と擬人化して考える。グランマザー・ムーン(おばあちゃんの月)が、植物や昆虫や魚や動物などの種を蒔く時期を決める。

     魚や蟹など多くの海洋生物が満月の夜に産卵をおこなう。月に面した側の海は引力によって、反対側は地球の自転による遠心力で、両面が満ち潮になる。そこに海水がもっていかれるため、間の部分は引き潮になる。

     地球(地表)も人間も70%を水が占めている。人間というプチ地球は体のなかに海をもっているのである。

     女性の生理周期は月と同じ28日であり、生理という浄化の時を「ムーン・タイム」とネイティブ・アメリカンは呼ぶ。

     ムーン・タイムの女性にはとても強いパワーが宿ると考えられている。古くなった生命を洗い流し、新しい生命が宿る準備を整える時期だからだ。自然界では肥沃な土壌をつくる洪水や老木をなぎ倒す嵐などにたとえられる現象だ。

     そのように強い力をもった女性がスエット・ロッジに参加すると儀式自体を破壊してしまう危険性がある。生理中の女性がスエット・ロッジに入れないのは、女性蔑視どころか、その力を畏れ敬うからだ。

     伝統的な村では生理中の女性がこもる「ムーン・ロッジ」という小屋があった。

     男はもちろん一般の女性たちも近寄ることはできない。氏族の女性リーダーであるクラン・マザーの指示に従って、世話役の女性たちが食事を運んだり、洗濯したり、体を拭いたりしてくれる。

     いっさいの日常的な瑣事から解放されたムーン・タイムの女性の仕事は瞑想である。

     月と語り合うのだ。

     月のおばあちゃんグラン・マザー・ムーンは、ムーン・タイムの女性をとおして、深遠な智恵と女性が生きる道しるべを教えてくれる。

     答えは夢にあらわれる。

     朝起きると、クラン・マザーにどんな夢を見たか話す。すると彼女が長年の経験から夢を解釈する。

     恋人や夫との関係、家庭のいざこざ、トウモロコシの種まきの時期、女として生まれてきた意味など、さまざまなトラブルの答えを月が示してくれるのだ。

     

     日本をはじめ先進国では生理を、「ケガレ」たもの、不浄なもの、恥ずかしいものとして教えられる。

     「源氏物語」(900年)には、宮廷の女性が妊娠すると宮廷をはなれなくてはいけない「宮下がり」という習慣が描かれている。天皇の「スメル=澄める」という概念が血や死によって「ケガレ」るからだという。

     同じく10世紀ごろの中国の仏典「血盆経(けっぽんきょう)」では、「血の穢れ多きゆえに地獄に堕ちた者」と女性を定義している。

     古代の母系制協調型社会が父兄制支配型社会に移行し、ムーン・タイムに対する畏れと敬いが「不浄」「穢れ」に貶められ、神聖なムーン・ロッジが監獄のような隔離小屋へと曲解されたのだ。

     不健康な迷信は現代においてさえ引き継がれ、生理の本当の意味を誰も教えてくれない。

     それどころか役割分担を不平等とかんちがいした男性支配層が生理休暇を取り上げ、生理中の女性を下等動物のように見下す。

     ギャンブルなどで使われる「ツキ」がまわってきたという言葉どおり、生理はラッキーチャンスである。

     自分が大いなる自然と分かちがたくつながっていること。

     自分が新しい命を生み、子どもたちを導く魔法を授かっていること。

     自分が宇宙から智恵を受けとるメッセンジャーであること。

     今まで憂鬱だった生理の日には、ちょっと月を意識して瞑想してみたらどうだろう。

     とくに満月や新月には「今グアテマラの海岸では海亀たちが、カリフォルニアの海岸ではグルニオンというイワシの群が砂を掘って産卵しているな」とか、「カキやカニやハマグリや珊瑚もあたしと同じ落ち着かない気分なのね」とか、「チンポみたいな竹から生まれたかぐや姫に月の使者がウイスパー型宇宙船にのってやってきて女になったのね」とか、

     ムーン・タイムの女性だけに降りてくるメッセージを受信できるって、うらやましい。

     インディアンの長老がこんなことを言ってた。

    「男は血を流して命を奪うが、女は血を流して命を産みだす。これじゃあどう考えたって男は女に頭があがらないだろう」

     

    11. 善悪の彼岸(新曲)

    「善」知るには「悪」を知らねばならない。

    「善悪」を語るその人生における体験の振り幅によって言葉の重みが増す。

    オレの人生の前半は殺人と強姦以外の悪をやりつくす最悪の人生だった。

    だからこそ後半の人生は悪を知るものだが伝えられるメッセージを伝えてきた。

    いやいや、今も悪の誘惑は拒めないが、できるだけ善に近づこうとしている発展途上だ。

    犯罪者も悪人も生まれる前に自分で脚本を書いてきたように思う。

    生きている限り、人は善と悪の無限の可能性を内包しているのだ。

     

    12. 存在の詩(15年前)

    人は「命という存在」でとてつもない奇跡を生きている。

    その奇跡に気づくには「死」を待たねばなるまい。

    人は失くしてはじめて気づく、その「存在」こそが無条件の愛だったことに。

    家族や我が子と言えども、他者をコントロールすることはできない。

    オレたちにできることは自分の人生で出会う70億から選ばれた「魂の家族」を抱きしめることしかできないのだ。

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    CARAVAN

    2018年12月リリース。12曲。2500円。